生徒1 小林先生は後ほど合流されるとのことなので、先に始めさせていただきます。
渡部先生は好きな世界遺産は何かありますか?
渡部 ケルン大聖堂とか、ドイツの。あとはゴシック建築が、好きですね!
生徒1 どのような建築ですか?
渡部 アーチになってて、中の構造が交差してて、重さをキープしてる。リブヴォールトっていうんだけど、語り始めるとうるさいよ
生徒1 (笑)
渡部 天井の支えをクロスさせて、120mぐらいの高さを出してるの。
生徒1 へー!
渡部 で、その部分がアーチ状になっていてそこに隙間ができたから、そこに窓をはめてステンドグラスにした。
生徒1 あ、それがステンドグラス!
渡部 そうそう。でも、あまりに石が重すぎるから外からも骨みたいな形で重さを支えてるんだけど、それがフライング・バットレ ス!イタリアで実際に見たときはずっと飛び跳ねてた
生徒1 (笑)
渡部 ずっと上を見すぎて首が…って。楽しいっすね。
生徒2 先生は建築様式にもすごく詳しいんだなぁって思ったんですけど、それは別に世界史で深くやるとかじゃなくて完全に趣味とし て好きなんですか?
渡部 まあ、趣味と、大学で史学科だったから。中世の世界史を勉強するか現代の世界史を勉強するか悩みに悩み、最終的に現代史にしたけど、教会建築の授業を選択したから。あとは趣味ですね。大学時代パソコン買って、ずっとGoogle earthで衛星写真を見て、ひとりで遊んでた。
生徒2 知的な遊びを!(笑)
一同 (笑)
渡部 ゴシック建築って上から見ると、十字架になってて。
生徒2 あー!
渡部 中の構造とかも全部Google earthで見れるし。バチカンの上とかも全部見れる。世界史で習った、世界の建築をあらかた調べて一人で見てた。楽しんでた。寂しい遊び。
生徒2 えー
渡部 楽しいよ、Google earthで旅するの。
生徒2 (小林先生の持ってきた世界遺産検定の参考書たちを見て)これ小林先生の私物ですか?
渡部 うん。私も二級はね、やろうと思ってた。小林航は二級持ってる
生徒2 えー!
渡部 渡部はもう仕事しながら勉強するの辛くてやめました。(参考書は)持ってるよ。あるけど、心が折れました。
生徒1 世界遺産検定ってどういうことを問われるんですか?
渡部 えっと5級、4級、3級、2級、1級に分かれてて、基本的に、条約?ユネスコの世界遺産登録の条件とか、世界遺産条約とかそういう基礎知識を学び、かつ日本と世界の遺産を学ぶっていう。で、級が高まるごとに世界遺産の数が増えていく。4級だと50、3級だと100、2級だと300、1級だと500とかだったかな。ちなみに世界遺産検定持ってる有名人で一番有名なのは鈴木亮平さん。1級持ってる。
生徒 歴史の科目の先生とかってみんな歴史オタクみたいな感じ。
渡部 オタクじゃないとやってけないからね
(小林先生合流)
渡部 小林航ってすごいんだよ実はって話してた。
生徒2 (爆笑)
小林 いやいやいやいや
渡部 あと私がゴシック建築のすばらしさを語ってた。
小林 あー
渡部 リブヴォールトとかフライング・バットレスとか。おすすめは、なんだろう。イタリアのミラノ大聖堂は屋上に登れるからおすすめ。拝観料3000円するけど。おもしろいのが、ドイツのケルン大聖堂は1ユーロで入れるんだけど、イタリアは20ユーロかかる。なぜ?
生徒1 ??
渡部 観光で食ってるか食ってないかの違いです。
生徒1 へー
渡部 ドイツは工業国なので、ほかの産業があるから観光で食ってない。でもイタリアは観光業が主産業だから。
小林 うんうん、そうね。
生徒1 では、小林先生の好きな世界遺産を教えてください。
小林 皆さんおなじみかもしれないけど、フランスにあるモン・サン=ミッシェルですね。実際に私もフランスに行ったことがあって。見てきました。
渡部 どんなところが(好きなんですか?)。
小林 どんなところ?!満潮のときは、海の中にあって、島のような形になってるんだけど…。日本で言うと江の島みたいなもので
渡部 急になんかしょぼくなった(笑)
小林 いやでもねえ、
渡部 ハードルが大分下がっちゃった。
小林 とにかく、見た目がきれいで。屋内に入るとね、あまりありがたみわかんないから外から見たほうがいいね。
渡部 なんか下げてない?
小林 えー(笑) なんて言ったらいいのかな?
渡部 名物あるんじゃない?
小林 名物。そう、オムレツ
生徒1 なんでオムレツなんですか?
小林 その昔、長旅を経てモン・サン=ミッシェルを訪れる巡礼者たちに、少しでも疲れが取れるようにということで、宿屋で提供されたのが始まりなんだ。
渡部 歴史的にはモン・サン=ミッシェルすごいけどね。
小林 うん、そう。
渡部 百年戦争の時にあそこがちゃんと城になって、攻防戦になったり、牢屋になって囚人を入れてたり。
生徒1 へー
渡部 あそこの建築様式も一部はロマネスク様式で一部ゴシック様式なの。
小林 そうそうそうそう
渡部 語ると長いから
生徒1 (笑)
小林 8世紀に、この地に住む司教オベールの夢に大天使ミカエルが現れ、この岩山に聖堂を建てるように告げた。オベールが聖堂を建てると津波が押し寄せて岩山は一夜にして島と化した。
渡部 聖堂のてっぺんにいるのが大天使ミカエル
小林 そうそうそう。
生徒2 へー
渡部 ミッシェルってミカエルのフランス語読みだから。
小林 うん。まあそういう伝説がある島でもうかれこれ1300年ぐらいの歴史がある。上には修道院があって、今でもキリスト教の修道士たちが修行してる。
渡部 世界遺産行きたいところあげたらキリがない。
小林 うん
渡部 ほんとにね、「どこでもドア」欲しいです。
生徒1 ケルン大聖堂とかって屋根の上に像があるじゃないですか。あれってゴシック様式の特徴なんですか?
渡部 特徴だね
生徒1 どこにでもあるんですか?
渡部 割とある。ガーゴイルは化け物でその建築を守るみたいな役目があるのと、雨どいになっててガーゴイルの口から水を捨てる仕組みになってる。だから実用とデザインが一緒になってるのは特徴だったりするかもね。って言っても誰に伝わるか。
小林 (笑)
生徒2 「ノートルダムの鐘」にでてきて
渡部 あ、そうそうそれそれ
小林 ノートルダム大聖堂はゴシック様式。ノートルダムは行ったことあるよ。
生徒1 ステンドグラスの話になるのですが、ケルン大聖堂は戦時中に一部焼かれて、修復するときにステンドグラスが少し変わったじゃないですか。あれに関して先生たちはどう思いますか?前の方がいいとか、今の方がいいとか…。
渡部 むずかしい…。
小林 難しい質問だね
渡部 前のは見たことないからわからんが…。ドイツも戦争でめちゃくちゃになったけど復活はしたってところ。戦争責任とか言い始めると難しいからあれだけど、やっぱヨーロッパが第二次世界大戦で戦争の舞台になったのでかなりめちゃくちゃになったんだよね。そもそも、世界遺産は遺産がめちゃくちゃにならないように保護しようってユネスコの考え方とかで始まってるから、戦争が終わってそこから新たに作り替えられたっていう負の遺産も込みでちゃんと認定されてるんならそれはありなんじゃないかなと考えました。どうでしょう。
小林 やっぱり形あるものはいつか壊れるものなので、まだ古いものの形…まあ個人的にはなにか再現するときにはオリジナルのものを残したほうがいいだろうなって思うけど…でもたとえばオスマン帝国の下にある、ハギア=ソフィア大聖堂って知ってる?
生徒1 わかんないです
渡部 ユスティニアヌスが
小林 はい、ユスティニアヌスが作った大聖堂があるんですけど、これはもともとキリスト教の建築物として作られたわけですよ。だけど、イスラム勢力が入ってきて、アザーンつってさ、お祈りの時間だよっていう、あの号令っていうか放送っていうか、呼びかけ?をして、あとから4つの、ミナレットっていうイスラム教のモスクに作り替えられちゃったのよ。もともとキリスト教の教会だったものが、世の中の変化に合わせてイスラム教の建築物に変わっちゃったっていうのは、今ステンドグラスがぶっ壊されて、新しくちょっと違うデザインに作り替えられちゃってるっていうことと、全然レベルは違うけど似てることだなって思っていて。時代が変わると文化財の形が変わるっていうのはある意味、時が流れるっていうのはそういうことかなって思うので、違うデザインのもので復活される、違うデザインのもので作り替えられるのは、それはそれで歴史なのかなとも思う。
渡部 すごい教科書のようなコメント。
小林 (笑)
渡部 さすが世界史の先生(笑)いやでもそうだね、実際にね。
小林 今の話伝わったかな。
渡部 伝わった伝わった。
小林 麗子先生には伝わった(笑)
渡部 二人ちょっとぽかーんって
生徒2 難しい!やっぱ予習が必要だった私たち。
小林 その観光、世界遺産観に行くときには、事前にいろんな知識とか背景とかを知ってからいかないと、楽しみは半減するかなって気はする。
渡部 それはある
小林 事前の情報収集が大切かな。
生徒1 では逆に今世界遺産になっていないもので、これはやっぱり世界遺産になったほうがいいでしょって思うような一押しの場所はありますか?
小林 ちょっと質問とそれるかもしれないけど、いま世界遺産ってすごいペースで増えてるんですよ。で、私見だけど、お金のにおいを感じる
渡部 確かに
小林 やっぱ世界遺産化されると、観光客がたくさん来るじゃないですか。だから日本でもいま世界遺産が増えてるけど、ちょっとあまりにも今世界遺産の数が増えすぎて、1200件ぐらいあるのかな?だから希少価値が下がってるかなとは思う。だからもうちょっと審査をしてっていうか、数を絞ってもいいんじゃないかって思う。日本も一年に一個ぐらいのペースで増えてる。
渡部 確かに。あとは無形文化遺産が増えていくといいなと思うね
小林 そうね
渡部 伝統工芸、日本は特に。伝統工芸を継ぐ人がいなくなっちゃってきているから。ちなみにパンダの保護って調べたらちゃんと世界遺産になってた。
小林 おー
渡部 四川省パンダ生息地が自然遺産に
生徒1 へー
渡部 今一番行きたいのは四川省かもしれない。パンダと三国志。行きたいところはずっと妄想し続けてる。我々。
生徒1 世界遺産にまつわる面白い話とかってありますか?
小林 おもしろい話?
渡部 おもしろいかはわかんないけど、私はケルン大聖堂に印象的なエピソードがあって。ケルン大聖堂は大学のゼミの友達と三人で行ったの。そしたら、一人の大学院生の女の人に声かけられて。「今のぼるところですか」「はい」「今のぼってきたんです。日本人になかなか会えないので会えてよかったです。」みたいな感じで。「頑張ってください。」とかって言ってくれて。それをすごい覚えてたの、我々も。そしてケルン大聖堂のぼりおわって、近くのチョコレート工場に行ったらまたその人に会ったの。このケルンで、同じ日本人の観光客で、二回も会うのはすごく奇遇だから、「私一人で旅行してるんですけど夜一緒にごはん食べませんか」って言われて、ケルンのレストランみたいなところで友達三人と大学院生の女性とビールを飲んだのをすごく覚えてる。
小林 あーーー
渡部 京都大学大学院医学部!なぜあのときFacebookの連絡先を交換しなかったのか。
小林 渡部先生たちは大学生?
渡部 うちらは大学4年生。でその女の人は京都大学大学院生医学部。超エリート。連絡先交換しておけば、いい出会いがあったかもしれない。
一同 (笑)
渡部 でも、すごい楽しかったね。やっぱり知らない土地で見ず知らずの日本人の人とご飯食べて、三時間ぐらい話して。もうほんとに、初めましてなんだけどずっと喋ってた。めっちゃ楽しかった。今みたいにLINEとかあれば、すぐ連絡先交換できただろうなとはおもうけど…。まあそれはそれでいい思い出。医者の友達ができたかもしれないのにっていう。
小林 今頃何してるんですかね
渡部 今頃?オペしてんじゃないの?
小林 おー
渡部 それはね、自分の中ですごい良いドイツの思い出だね。
渡部 なんか面白い話ない…?なんか面白い話…。
小林 世界遺産でしょ?
渡部 それこそほら、イタリアに男1女3で行った話とかあるんじゃない?
小林 それはいいでしょ!
生徒2 え!そうだったんですか!?
小林 余計なことを言うんじゃないよ!
生徒1 ハーレム…
渡部 ハーレムだ
小林 正確には男1女4ね
渡部 もっとじゃん
一同 (笑)
渡部 ないの?そのイタリア旅行の思い出。
小林 さっきの麗子先生の話じゃないけどイタリアに行って、イタリアの世界遺産のピサの斜塔?
渡部 あー
小林 ピサの斜塔に行って写真を撮っているときに、「集合」っていう聞いたことのある野太い声がして。私大学時代は吹奏楽サークルに入っていて、そのトランペットパートのメンバーで行ってたんですけど、そのサークルの指揮者の先生がそこにいて(自分たちをみつけて集合をかけた)。
渡部 へー!
小林 「えー!」ってなって。期せずして、ばったりイタリアで会った。
渡部 その先生何してたの?研修してたの?
小林 プライベート旅行。んで、写真撮って。夜、両方フィレンツェで宿を取ってたので、市場で飯食ったね。
渡部 あるじゃんエピソード!
小林 世界遺産関係ないから!
渡部 いいよ!そんなこと言ったらケルン大聖堂の話も関係ないから(笑)
小林 うんやっぱりね、海外で人に会うのってすごくね、テンション上がる
渡部 そう、日本人に会うとね
小林 うん。自分たちがマイノリティなわけじゃん、ヨーロッパに行くと。言葉もなかなか通じなくてしんどい中で日本の知ってる人に会うのってすごい高まるよ。
生徒2 これからいってみたい世界遺産はありますか?
渡部 いま私が一番行きたいのはイスラム教国のウズベキスタン。世界史の教員として仏教圏の国、カンボジアとかタイとか台湾は行ったし。キリスト教の国は正教系もカトリックもプロテスタントも行ったけど、唯一行ってないのがイスラム系。ちょっとやっぱ異文化体験を(してみたい)、イスラム教を。
小林 私は南米に行きたいなぁ。
渡部 あー、あるね。
小林 マチュピチュとか。
渡部 いいねぇ!クスコとかね。
小林 うん
生徒2 ちょっとずれる話になるんですけど、文杉の中で誇れる、文杉遺産にしていきたいよねっていうものはありますか?
渡部 あー
小林 ありそう!
生徒2 ありそう(笑)
小林 よく考えればありそう!
渡部 まあやっぱあれじゃない?ファッションショー。
小林 あー
渡部 ウェディングドレスとか。やっぱ去年高3の被服の子たち、何人も担当したけど、みんな一生懸命頑張って、最後終わった時にめちゃくちゃ泣いてたね。すごい印象に残ってる。やり切った感。あれすごい財産だと思う。しかも文杉らしいし。
小林 確かにね。文大の付属らしい。
生徒2 高橋先生たちは形に残ってるものじゃなくて、この学校の(先生も生徒も)一人ひとりのキャラクターが立ってるよねみたいな。で、みんな個性を理解し合って、好きなことを恥ずかしがらずに胸を張って好きって言えるのがいいよねみたいなことを言ってました。
小林 俺もそう思う
一同 (笑)
小林 俺もそう思うよ(笑)
渡部 のっかる我ら。のっかる人たち。でも確かに自由にやりながら、自由を認め合いつつ、興味がないものには干渉しないだけなのかわからないけど、なんかいい感じなバランスはとれてる。
生徒2 では、先生たちが思う世界遺産の意義ってなんですか。
渡部 意義。意義ねぇ…。難しいな。まあ、世界遺産って言ってもやっぱり人類の歴史っていい面も悪い面もあるから。私は特に、歴史の負の遺産みたいなのを残しておいてほしい。あとは自然環境もかなり、温暖化とかでどんどん失われていくから。昔の人が残してきたもの、昔の人が代々受け継いできたものを、今を生きる我々も次の世代に残す。引き継ぐっていう意味でも、世界遺産っていうのは大事なのかなと思います。特に負の遺産に関してはちゃんと残してほしいな。アウシュビッツ強制収容所とか。で、やっぱそこに行く意味もあると思う。
小林 私は、その世界遺産の意義っていうのは、本当にごくごく一般的な人がそういう外国の歴史とか、自然とか、文化に興味を持つきっかけになるかなと思ってて。もちろん、我々みたいに興味をもって、自分からそういう大学の学部学科に入って、世界史を教えることをお仕事としているような人は世界遺産じゃなくても興味を持つけど、世界遺産ってなったらさ、全然世界史とか興味ない人でも「世界遺産ってなるぐらいなら行くか」ってなるじゃん。だから、世界遺産というレッテルを貼ることによって、もともと興味ない人も興味を持つ入口になる、きっかけになる。それがまあ世界遺産の意義かなって。
生徒1 ありがとうございました。